地形を定義する
戦略パラメータをベクトルθ=(θ1, …, θd)、評価値をJ(θ)とします。θは移動平均期間、損切りATR倍率、保有期限などです。
Jはコスト後Sharpe、期待値、DSR、または複数指標をまとめた事前定義スコア。
機械学習は損失L(θ)を最小化するので「平らな底」を探します。売買戦略は成績J(θ)を最大化するため、同じ発想は「広い丘」や「台地」です。単にL=−Jと置けば数学的には同じですが、何を最大化したかを明記します。
| 目的関数の候補 | 長所 | 隠しやすい問題 |
|---|---|---|
| Sharpe | 尺度をそろえやすい | 選択バイアス、時間集中 |
| コスト後期待値 | 1取引の経済性が明確 | 経路リスク、少数取引 |
| DSR | 試行量を補正 | 構造変化、局所感度 |
| 複合スコア | 複数制約を反映 | 重み自体の最適化 |
勾配と曲率
Jが滑らかなら、局所感度は勾配、曲率はHessianで表せます。
局所最大θ*では通常、勾配がゼロに近く、Hessianは負の曲率を持ちます。固有値の絶対値が大きければ鋭い頂点、小さければ局所的に平らです。
ただし、売買ルールの成績は注文の有無が閾値で飛ぶため、微分不能・段差状になりやすい点に注意します。
離散戦略では有限差分
パラメータを格子で試す場合、偏微分の代わりに有限差分を使います。刻み幅をhとすると、一変数の局所傾きと曲率は次で近似できます。
EMA期間1と100の「1だけ変更」は同じ相対変化ではありません。生の単位だけでなく、θ′=log θや基準値に対する比率で近傍を定義し、経済的に同程度の変更を比べます。
パラメータが3個以上なら、固定した他の値で地形が変わります。主要な2次元断面、1変数プロファイル、近傍分布を併記します。
近傍全体を採点する
半径εの近傍Bε(θ)を決め、最高値ではなく近傍の最悪値や平均を評価します。
実務では近傍の中央値、10%点、標準偏差、正のセル比率も並べます。単一スコアへまとめる場合、重みやεを結果を見る前に固定します。重みを動かして良い地形を作れば、その調整も試行です。
neighbors = surface.loc[
ema.between(18, 22),
stop_atr.between(1.8, 2.2)
]
summary = {
"median": neighbors.median(),
"q10": neighbors.quantile(0.10),
"worst": neighbors.min(),
"positive_rate": (neighbors > 0).mean(),
}Flat Minimaの限界
平坦さは有用な頑健性ヒューリスティックですが、汎化の証明ではありません。
- 再パラメータ化:期間を線形軸にするか対数軸にするかで曲率は変わる。
- 不活性パラメータ:損切りが一度も発動しなければ、損切り幅方向は平らでも意味がない。
- 共通ノイズ:近い候補は同じ相場履歴へ似た形で適合し、広い偽の台地を作り得る。
- レジーム依存:全期間では平らでも、年別・ボラ別では符号が反転する場合がある。
- 目的関数依存:Sharpeの台地がDDや売買回転率でも良いとは限らない。
深層学習でも、同じ関数を表すネットワークを再パラメータ化すると鋭さを変えられるため、「平らなら必ず汎化する」という単純な説明は成立しないと指摘されています。
N・OOSとの接続
20×30セルを計算して地形を見たなら、選択に使った候補は600です。「頂点でなく台地を選んだ」ことはNを1へ戻しません。
- 探索前に範囲、刻み、目的関数、近傍ε、選択規則を固定する。
- 全セルを累計試行Nへ加算し、DSRを計算する。
- ランドスケープはISだけで作り、台地の選択規則を凍結する。
- 未使用OOS、CPCV、フォワードで同じ規則を評価する。
台地は「パラメータを少し誤差なく当てなくても動く」という局所的な証拠です。エッジの存在、未知レジームへの耐性、実運用可能性は別の検証が必要です。
ミニテスト
4問で確認します。
Q1. 売買戦略で自然な地形の向きは?
損失L=−Jなら平らな底と同じ発想です。
Q2. 離散的な売買ルールで使いやすいものは?
段差のある目的関数でも近傍感度を測れます。
Q3. 20×30グリッドを選択に使った場合のN加算は?
図の枚数ではなく比較候補数を数えます。
Q4. 広い台地が証明するものは?
他の品質・OOS検証は別途必要です。
参考資料
Flat Minimaの原点は Hochreiter and Schmidhuber, Flat Minima。平坦さの再パラメータ化問題は Dinh et al., Sharp Minima Can Generalize For Deep Nets。売買戦略の入門版は点ではなく面を見るを参照してください。