Sharpeの標準誤差
観測SharpeをSR̂、標本数をT、収益の歪度をγ̂3、通常の尖度をγ̂4とします。独立性などの近似条件の下で、非正規性を反映した標準誤差は次の形になります。
γ̂₄は超過尖度ではなく通常の尖度です。正規分布ならγ₃=0、γ₄=3。
負の歪み、厚い裾、短い標本は不確実性を大きくします。自己相関が強い場合は、この閉形式だけで終えず、依存を考慮した推定やブートストラップを検討します。
Probabilistic Sharpe Ratio
基準SharpeをSR0、標準正規分布の累積分布関数をΦとすると、PSRは次です。
PSR=0.97なら、使用した近似モデルの下で母Sharpeが基準SR0を上回る確率が高い、と読みます。将来利益が出る確率でも、最大DDを超えない確率でもありません。
取引コスト、代替戦略、資本コストを踏まえれば、ゼロより高い基準が必要な場合があります。基準を結果を見た後で動かさず、検証前に固定します。
多数試行の期待最大Sharpe
N個の候補Sharpeが平均μSR、標準偏差σSRの帰無分布から得られるとします。Euler–Mascheroni定数をγ≈0.5772とすると、最大値の期待値は次で近似できます。
Nが増えるほど、エッジがなくても「優勝者」のSharpeは上がります。ここで必要なのは公開した案の数ではなく、同じデータを見て比較・変更した全候補です。
Deflated Sharpe Ratio
DSRは、PSRの基準SR0へ「多数試行から偶然期待される最大Sharpe」を入れたものと考えられます。
| 指標 | 答える問い | 補正しないもの |
|---|---|---|
| SR | 標本の平均超過収益÷変動 | 推定誤差・探索量 |
| PSR | 基準SRを上回る確率 | 候補を多数試した選択 |
| DSR | 探索後の偶然水準を上回る確率 | 先読み・コスト漏れ・構造変化 |
本サイトの採用ゲートはDSR≥0.95です。ただし、DSRが高くても後続のパラメータ頑健性、OOS、CPCV、フォワードを省略しません。
試行Nの会計
対象: USDJPY 2015-01-01〜2025-12-31
候補: EMA 5水準 × 損切り 4水準 × 利確 3水準 = 60
この実行で N は 120 → 180 になる
選択規則: ISで固定し、最終OOSは一度だけ開く- グリッド60セルはN+60。図を1枚描いたからN+1ではありません。
- 結果を見て探索範囲を広げたら、追加セルもNへ加えます。
- 不採用案、別の目的関数、後付けフィルタも選択に使えば試行です。
- 相関した候補の有効試行数を推定する高度な方法はありますが、記録自体は省略しません。
DSRは探索量を補正しますが、「鋭い1点を選んだか、広い台地を選んだか」は直接見ません。次回はパラメータ・ランドスケープの形を調べます。
ミニテスト
4問で確認します。
Q1. PSRが答える問いは?
使用した分布近似の下で基準超過を評価します。
Q2. DSRがPSRへ追加する主な補正は?
偶然の優勝者が出る水準を基準にします。
Q3. 5×4×3グリッドのN加算は?
比較した全組み合わせを数えます。
Q4. DSR≥0.95なら省略できるものは?
DSRは品質ゲートの一つです。
参考資料
Bailey and López de Prado, The Deflated Sharpe Ratio。平易な試行会計は検証コース第9回も参照してください。