ローリングSharpe列

超過収益r1,…,rTと窓幅wを用意します。各開始点kで窓[k,k+w−1]のSharpeを計算し、ẑkと置きます。

k = SR̂(rk,…,rk+w−1), k=1,…,nn = T − w + 1

ローリングSharpeの標本平均は次です。

z̄ = (1/n) Σk=1nk

隣接する窓はw−1個の収益を共有します。元の収益が独立でも、ẑk列には機械的に強い自己相関が生まれます。

Window 1Window 2Window 3隣接窓は大部分の収益を共有し、ẑ列は独立ではない
通常の標準偏差だけでは、ローリングSharpe平均の不確実性を過小評価します。

HAC長期分散

ẑ列のラグh自己共分散をγ̂hとします。

γ̂h = (1/n) Σt=h+1n(ẑt−z̄)(ẑt−h−z̄)

Newey–West型のBartlett重みと打切りラグLを用いた長期分散Ω̂は次です。

Ω̂ = γ̂0 + 2Σh=1L[1 − h/(L+1)]γ̂h

Ω̂は単一のẑの分散ではなく、自己相関を含む長期分散です。平均z̄の漸近分散はおよそΩ̂/nになります。

Lを結果で最適化しない

データ依存の帯域選択法を使うか、事前に規則を固定し、主要なLで感度を報告します。良いSSRになるLだけを選べば新しい試行です。

SSRとnormalized SSR

基準SharpeをSR0とします。2026年の原論文は、長期標準偏差√Ω̂で割った量をSSRと定義します。

SSR̂(SR0) = (z̄ − SR0) / √Ω̂

平均の標準誤差√(Ω̂/n)で割る推論用の量はnormalized SSRです。

nSSR̂ = √n × SSR̂ = (z̄ − SR0) / √(Ω̂/n)
実装間の呼称差を記録する

実務ライブラリには、t統計量型のnormalized量を単に「SSR」と表示するものがあります。数値だけを書かず、分子・分母・√nの有無を式で報告します。

推論とブートストラップ

定常性と弱い依存などの正則条件の下で、nSSRは漸近的に標準正規分布へ近づきます。

nSSR̂ ⇒ N(0,1) under H0: E[ẑ]=SR0

しかし重複窓の自己相関は非常に強いため、小標本で正規近似だけを信用しません。元収益を連続ブロック単位で再標本化し、各bootstrap標本でローリングSharpe、HAC、SSRを最初から再計算します。

Moving-block bootstrapの流れ
for b in range(B):
    r_b = sample_contiguous_blocks(returns, block_length)
    z_b = rolling_sharpe(r_b, window=w)
    omega_b = newey_west_long_run_variance(z_b, lag=L)
    nssr_b = (z_b.mean() - sr0) / np.sqrt(omega_b / len(z_b))
    store(nssr_b)

ci = np.quantile(stored_nssr, [0.025, 0.975])

ブロック長、反復数、乱数seedも記録します。ブロック長候補を見比べて採用するなら、その選択も研究ログへ残します。

窓幅と基準

窓幅wに普遍的な正解はありません。短い窓はSharpe自体が騒がしく、長い窓はレジーム変化を平均化しすぎます。

設計短すぎる場合長すぎる場合
ローリング窓wSR分母が不安定、極端値変化を隠し、窓数も減る
HACラグL依存を取りこぼす推定分散が大きく不安定
bootstrap block依存を壊す有効再標本数が減る

SR0=0は基礎比較ですが、運用要件に応じた基準も事前に定めます。w、L、SR0を結果に合わせて動かさず、主要な感度を併記します。

解釈と誤用

指標問い
SR全標本の平均的なリスク調整後成績は?
PSR基準SRを上回る統計的確からしさは?
DSR多数試行を考慮してもSharpeは十分か?
SSR / nSSRローリングSharpeは時間を通じて基準を安定して上回るか?

ミニテスト

4問で確認します。

Q1. ローリングSharpe列に強い自己相関が生じる主因は?

隣接窓はw−1個を共有します。

Q2. HAC長期分散が扱うものは?

通常分散で依存を無視しません。

Q3. 原論文のnSSRとSSRの関係は?

平均の標準誤差で標準化した量です。

Q4. SSRが直接補正しないものは?

選択バイアスはNとDSRの問いです。

参考資料

Bajo Traver and Rodríguez Domínguez, The Sharpe Stability Ratio: Temporal Consistency of Risk-Adjusted Performance(2026年ワーキングペーパー)。実務的な再現例はPortfolio Optimizer