両建てグリッドEAをゼロから作る(第11回:完成版の最初の1本をADX以外にしたら?)

この連載は研究用です。 読み物として楽しんでもらえれば。

前回のおさらい

第10回は、部品を1つずつ賢くした 完成版(HG13)を回しました。18か月を最後まで走り切り、損益合計は +13,999 USD。ただし最大DDは −17,354 USD で、利益より大きいものでした。

完成版でも、サイクルの最初の1本は ADX で入っています。今回は、この最初の1本だけを、有名なテクニカル5種類に入れ替えて比べます。 

比べた6種類

入れ替えるのは最初の1本の入り方だけです。ロック・追加・サブ玉・剥がし・まとめて決済・上限100本は、第10回の完成版とまったく同じです。ADX 以外の指標は、どれも教科書どおりの初期値で、調整していません。

エントリー買いの条件(売りはその逆)
ADX(第10回)1分足 ADX(25)≥25 と 15分足 ADX(20)≥25、どちらも +DI > −DI
EMA 9/211分足で EMA9 が EMA21 を上に抜けた
MACD1分足で MACD(12,26,9) がシグナルを上に抜けた
RSI 30/701分足で RSI(14) が30を下から上に戻した
ボリバン1分足の終値が BB(20, 2σ) の上の線を、初めて上に抜けて確定した
ストキャス1分足で %K(14,3,3) が %D を上に抜けた(%K が20より下のとき)

(RSI とストキャスは「行きすぎたら逆に入る」逆張り、ほかは抜けた方向に入る順張りです。どれも確定した1分足で判定します。)

条件は第0回の表のとおりです(XAUUSD、2025-01-01〜2026-07-01、リアルティック、メイン玉は0.01ロット、初期証拠金 50,000 USD)。初期証拠金が大きいのは第0回にも書いた通り、最大DDがどこまで掘るかを確かめるためです。 

結果

エントリー試行 Nサイクル数20本以上になったサイクル(うちプラス)損益合計最大DD(含み損込み)含み損込みの一番低いところ同時に持った最大ロットDSR(N=100 換算)
ADX(第10回)323,95466(66)+13,999−17,35445,3036.000.085(0.036)
EMA 9/21334,59156(56)+34,666−14,60643,9825.690.122(0.057)
MACD345,83590(90)+18,430−18,13940,0493.530.100(0.046)
RSI 30/70354,17969(69)+12,870−10,39144,7554.000.107(0.051)
ボリンジャー363,02154(53)−19,663−42,53617,4803.040.001(0.000)
ストキャス375,16566(66)+15,907−34,59925,7075.090.052(0.023)

(金額はUSD。DSR は試行回数で割り引いたシャープレシオの信頼度で、0.95以上が合格。)

6種類の確定した残高

6種類とも口座は破綻せず、どれも玉の上限(100本)まで積み上がった日がありました。ボリンジャー以外の5種類は、損益合計がプラスで終わっています。

数字だけ見ると、EMA 9/21 が損益合計 +34,666 USD で、ADX の2.5倍です。最大DDも ADX より小さい。それなら、次回の設定値の比較は EMA でやればいいのでは?と思うはずです。

この連載では、このあとも ADX を使います。理由を順に説明します。 

なぜ EMA 9/21 に乗り換えないのか

ぶっちゃけ乗り換えてもいいけど・・・

1. 差は、ほぼ1つのサイクルから来ている

EMA と ADX の確定損益の差を、月ごとに並べました。

月ごとの確定損益の差(EMA − ADX)

18か月のうち17か月は、差が ±750 USD 以内に収まっています。差のほとんどは2026年3月の1か月(+20,309 USD) です。

その中身は、2026年2月23日に始まった 1つのサイクル でした。このサイクルだけで +21,926 USD を稼いでいます。

日その日の最大の玉の数その日の最大ロット確定した残高(日末)含み損込みの資産(日末)その日の一番低いところ
2月23日12本0.1858,96658,84758,841
2月25日44本2.6059,05152,53252,640
2月27日77本5.6959,03379,90347,769
3月2日77本5.6980,62579,02676,483
3月11日73本4.7280,62868,33366,047
3月19日100本1.3480,939(全部決済)79,33875,543

2月27日には、玉が77本・5.69ロットまで膨らみ、含み損は一時 −11,264 USD でした。そこから 同じ日のうちにGoldが大きく動き、膨らんだ玉がそちら向きだったので、含み損が +20,000 USD を超える含み益に変わりました。週明けの3月2日、取引が始まってすぐに、利益の乗った42本・5.34ロットを決済して +21,575 USD。残高が約 59,000 から 80,600 USD に跳ねました。上の残高の図の、金色の線の段差です。残った玉はそのあとも含み損を抱え(3月11日には、それまでの残高のピーク 80,653 USD から −14,606 USD。これが EMA の最大DDです)、3月19日にやっと全部決済できました。

これは第10回で見た「2026年5月の1サイクル」と同じしくみです。サブ玉はメイン玉の合計の半分のロットで積み上がるので、サイクルが長引くと玉の量が勝手に増えます。そのあとGoldがどちらに動くかで、結果が大きく割れます。ADX の5月のサイクルは +248 USD で終わり、EMA の2月のサイクルは +21,926 USD で終わりました。5.69ロットはGold569オンスです。同じ日に逆へ同じだけ動いていたら、+20,000 USD ではなく、同じくらいの大きさの損になっていました。

このサイクルが無かったら、EMA の損益合計は +12,740 USD です。公平にするために、6種類とも「一番稼いだサイクル1つ」を除くと、こうなります。

エントリー損益合計一番稼いだサイクルそれを除いた損益
ADX+13,999+867+13,131
EMA 9/21+34,666+21,926+12,740
MACD+18,430+411+18,019
RSI 30/70+12,870+298+12,572
ボリンジャー−19,663+281−19,945
ストキャス+15,907+513+15,393

EMA 以外は、一番稼いだサイクルでも +300〜900 USD です。EMA だけが、1本のサイクルに利益の6割以上を頼っています。それを除くと、EMA は ADX より少し下になります。

2. それ以外の期間は、6種類ともほとんど同じ

前半の9か月(2025年1〜9月)の損益合計は、ADX +3,269、EMA +2,825、MACD +3,325、RSI +2,694、ボリンジャー +3,264、ストキャス +3,484 USD。差は最大でも800 USD ほどです。

月ごとの損益が ADX とどれくらい似ているか(相関係数)も、EMA 0.78、MACD 0.79、RSI 0.87、ストキャス 0.80 でした(1に近いほど同じ動き)。ボリンジャーだけ 0.02 ですが、これは最後の1サイクルで大きく負けたせいです(あとで説明します)。

完成版の稼ぎの大部分は、ロックせずに終わる小さなサイクルと、20本以上まで膨らんでからまとめて決済できたサイクルです。この部分は、最初の1本をどのテクニカルで入っても変わりません。入り方を替えて変わるのは、大きく膨らんだサイクルが、どの日に、どちら向きで来るか だけでした。

3. 物差しを替えると、1位が入れ替わる

「どれが一番いいか」は、何で測るかで変わります。

物差し1位2位ADX の順位
損益合計EMA(+34,666)MACD(+18,430)4位
最大DDの小ささRSI(−10,391)EMA(−14,606)3位
一番稼いだサイクルを除いた損益MACD(+18,019)ストキャス(+15,393)3位
含み損込みの一番低いところADX(45,303)RSI(44,755)1位

損益合計なら EMA、DDなら RSI、偶然の1本を除けば MACD、一番へこんだところなら ADX が1位です。どれか1つの物差しで選べば、その物差しが偶然有利だったものが選ばれます。

4. DSR はどれも合格ラインに遠い

EMA の DSR は 0.122(試行を文献補正の N=100 に増やすと 0.057)で、合格の目安 0.95 には遠く届きません。1回の取引あたりの損益の95%の幅も、EMA は −0.48〜+6.02 USD で、ゼロをまたいでいます。6種類とも同じです。

統計的には、EMA が ADX より良いとも、悪いとも言えません。「区別がつかない」が答えです。

5. 結果を見てから選ぶと、偶然を上乗せすることになる

区別がつかないものの中から、たまたま一番数字の良かったものを選ぶと、その「たまたま」が次の結果にも乗ります。

次回は、設定値を何通りも変えて回します。そのとき、今回 EMA を選んだ同じ18か月で、さらに設定を詰めることになります。偶然で1位になったものを、同じデータでもう一度磨くことになり、良く見える数字がもっと良く見えるだけです。試行回数 N も、今回の5回(N=33〜37)はもう使っていて、乗り換えても戻ってきません。

6. 前にも同じことが起きている

実は第4回の剥がし型(HG06)でも、記事にはしませんでしたが、同じ6種類を比べています(N=21〜25)。そのときも、1位は EMA でした。

ただ、理由は今回と同じく「1つのサイクル」でした。そのときは最後まで決済できずに固まったサイクルが、EMA だけたまたま買いが少し多い向きで固まっていて、Goldが上がり続けたおかげで抜け出せた、というものです。一方 ADX は、そのときは6種類で一番悪い結果でした。

EMA が2回続けて1位だったのは、どちらも「膨らんだ1つのサイクルの向きが、その後の値動きと合っていた」からで、毎回の中身は別の偶然です。ADX の順位も、そのときは最下位、今回は中ほどと、EAを変えるだけで入れ替わっています。

まとめると

EMA が悪いわけではありません。ADX と区別がつかない のです。区別がつかないなら、結果を見る前に決めていた ADX のまま進めるほうが、偶然を持ち込まずに済みます。 

ボリンジャーは、最後の1サイクルで負けた

ボリンジャーは、2026年2月9日に始まったサイクルが最後まで終わりませんでした。2月23日には玉が上限の100本(2.59ロット)に達し、そのまま4か月以上持ち続けて、テスト終了の6月30日に強制決済しています。

項目金額
このサイクルの損益−29,680 USD
うちスワップ−9,436 USD
含み損込みの一番低いところ17,480 USD(2026-06-15)

このサイクルが無ければ、損益合計は +10,016 USD でした。完成版は「終わらないサイクルを出さない」ことで完走しましたが、それは ADX で入ったときにたまたまそうだった、ということになります。入り方を替えただけで、6回に1回は、また終わらないサイクルが出ました。 

第11回のまとめ

  • 完成版の最初の1本を6種類に入れ替えても、口座はどれも破綻しなかった。5種類は損益合計がプラス
  • 一番良かった EMA 9/21(+34,666 USD)の差は、ほぼ1つのサイクル(+21,926 USD)から来ていた。それを除くと ADX と同じくらい
  • 前半9か月の損益も、月ごとの動きも、6種類でほとんど同じ。違うのは「大きく膨らんだサイクルが、いつ、どちら向きで来たか」
  • 物差しを替えると1位が入れ替わり、DSR はどれも 0.95 に遠い。どれが良いかは区別できない
  • ボリンジャーは、終わらないサイクルが1本出て −19,663 USD。完成版でも、入り方次第で固まるサイクルは出る

この連載では、次回以降も ADX の完成版を使います。 

次回

次回は、ADX の完成版の 設定値(ロックする幅、追加の間隔、サブ玉のロットの割合、まとめて決済の目標など)を、何通りも変えて回します。結果が設定値にどれだけ左右されるかを見ます。 

試行回数について

今回は N=33〜37 です(EMA=33、MACD=34、RSI=35、ボリンジャー=36、ストキャス=37)。第10回(N=32)の続きで数えています。どれも回す前に条件を決めて、1回ずつだけ回しました。 

ソースコード

研究用です。リアル口座では使わないでください。第10回の HG13 に、InpEntryMode(0=ADX、1=EMA、2=MACD、3=RSI、4=ボリンジャー、5=ストキャス)を足しただけです。InpEntryMode=0 のときは HG13 とまったく同じ動きです。ログ出力の hg_log.mqh は第1回と同じです。

HG14_Entries.mq5

ソースコードは note に置いています。こちらからゲットしてください。

Xでよく見るグリッド系トレードのソース(第0版)|WOLF
2年バックテストでDD鬼デカなので勉強用です。パラメータイジればマシになるが人はそれを過剰最適化と呼ぶんだぜ。

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