帰無仮説とは

帰無仮説は、検証を始めるときの基準です。トレードルールなら「この条件は比較対象より良い結果を生まない」と置きます。利益が出ることを証明しに行くのではなく、エッジなしでは説明しにくい差があるかを調べます。

帰無仮説を棄却できなかったことは「絶対に効かない」という証明ではありません。今のデータと検定では、偶然との差を十分に区別できなかった、という意味です。

比較対象をそろえる

比較対象は、調べたいルール以外の条件をなるべく同じにします。

候補時刻を無作為に入れ替える「シグナル・パーミュテーション」は一つの方法です。ただし、時間帯や連続性を壊すと現実より簡単な比較になります。時系列の依存を残すブロック型の再標本化など、仮説に合う方法を選びます。

エッジなしで起きる結果の範囲実際の結果比較分布の端より外か、それとも中に埋もれるか
観測値だけでなく、エッジなしでも起きる結果の分布と並べて読みます。

FXとゴールド固有の注意

FX

株式の買い持ちと同じ基準をそのまま使えません。通貨ペアには2通貨の金利差、スワップ、USDや円への共通エクスポージャー、東京・ロンドン・NYの時間帯差があります。「いつ買っても同じ」ではないので、方向と時間をそろえた比較が必要です。

ゴールド

XAU/USDは長期局面、ドル、実質金利、リスク回避、ロンドン・NY時間への依存があります。買い中心のルールなら、単なる金上昇局面の保有益とシグナルの寄与を分けます。CFDの価格配信やロール条件も記録します。

p値を誤解しない

p値は「帰無仮説が正しい確率」ではありません。帰無仮説を仮定したときに、観測結果以上に極端な結果が出る割合です。p値が小さくても、コスト後の差が小さすぎれば取引価値はありません。逆にサンプルが少ないと、実用的な差があっても検出できない場合があります。

試した数を隠さない

100通りの中から最小p値だけを報告すれば、偶然の当たりを選びやすくなります。第9回で、累計試行数NとDSRによる補正を扱います。

よくある間違い

利益ゼロだけを比較対象にする

同じ方向・時間帯に持つだけでプラスになるなら、ゼロとの比較はルールの寄与を過大評価します。

無作為化で市場の構造まで壊す

ボラティリティのまとまりや時間帯を消した比較は、現実より弱い帰無分布を作ることがあります。

有意なら採用と決める

統計的な差と、コスト後に残る実用的な差は別です。両方を満たす必要があります。

実戦課題

第5回で作った仮説に、次の1行を追加します。「比較対象は、方向比率・曜日・時間帯・保有本数・コストを○○の方法で一致させる」。まだ最適な条件を選ばず、比較方法を先に固定してください。

チェックリスト

ミニテスト

4問で確認します。

Q1. 帰無仮説の基本形は?

まずエッジなしを置き、データがそれに反するかを調べます。

Q2. 良い比較対象は?

調べたいルール以外の条件をそろえます。

Q3. p値が表すものは?

帰無仮説そのものの確率ではありません。

Q4. 統計的に差があれば必ず取引できる?

統計差と実用差は別に確認します。

参考資料

データを繰り返し使ったモデル選択と比較基準については、Halbert White, A Reality Check for Data Snooping を参考にしています。