観察と仮説の違い
「ドル円は東京高値を抜けると伸びやすい」は観察です。高値の集計時間、抜けたと判定する足、伸びたと数える値幅、評価期限が分からないため、都合のよいチャートだけを選べます。仮説は、失敗になる結果まで先に書いた観察です。
7項目で仕様化する
- 対象:シンボル、時間足、検証期間を固定する。
- データと時刻:データ提供元、タイムゾーン、日足境界、欠損処理を固定する。
- トリガー:数値と条件で、候補が発生する瞬間を定義する。
- 予測する結果:リターン、到達値幅、勝敗など測れる量を1つ決める。
- 期限:何本後、何時まで、何日以内かを決める。
- 成功と失敗:採用・不採用の基準を結果を見る前に書く。
- 比較対象:条件なし、ランダム時刻、同じ方向比率など、次回学ぶ基準を決める。
FXは24時間動き、業者によりサーバー時刻や日足境界が異なります。「東京時間」「日足」を書くだけでは再現できません。JSTとサーバー時刻の両方を記録します。
FXの例
曖昧な主張:「東京レンジを上抜けたドル円は上がりやすい」。検証用には、例えば次のように固定します。
- 対象:USD/JPYの15分足、あらかじめ決めた期間。
- トリガー:JST 9:00〜15:00の高値を、16:00〜18:00の確定足終値が初めて上回る。
- 結果と期限:次の8本以内の最大上昇幅と最大逆行幅を測る。
- 失敗:事前に決めた差が比較対象を上回らない、または95%信頼区間がゼロを含む。
- 比較:同じ曜日・時間帯・保有本数で無作為に選んだ場面。
これは手法の推奨ではなく、曖昧な文章を測定可能にする例です。数値を見た後で時間帯や本数を変えれば、新しい試行になります。
ゴールドの例
「ゴールドはドル安で上がる」も、そのままでは仮説ではありません。XAU/USDのデータ提供元、ドル指数の時刻、同時点の変化か翌日の変化か、実質金利やイベント日をどう扱うかを固定します。CFDでは取引時間・スプレッド・ロール条件も業者ごとに違うため、結果だけでなく契約仕様も残します。
エッジ候補の見つけ方:探索と確認を分ける
エッジ発見の入口は、チャート観察、取引日誌、市場制度、経済的な仕組み、探索的な集計です。曜日、時間帯、ボラティリティ、方向、イベント前後などに分けると差が見えることがあります。ただし、探索に使ったデータ上の差は候補を作った証拠であり、そのまま採用の証拠にはなりません。
- 観察:何が違って見えるかを記録する。
- 仕組み:なぜ差が生まれ得るか、参加者・制度・執行の理由を考える。
- 仕様化:入口、出口、期限、コスト、失敗条件を固定する。
- 比較:同じ時刻・保有時間・方向比率を持つコントロール群との差を測る。
- 確認:探索に使っていない期間やデータで再評価する。
切り口を増やすほど偶然の好成績も見つかります。探索時に比較した条件と選択過程を保存し、確認用データを触る前に仮説を固定します。試行会計と多重検定補正は試行回数NとDSRで扱います。
よくある間違い
結果を見てから「本物の形」を決める
伸びた場面だけを本物のブレイクと呼ぶと、失敗例が定義から消えます。トリガーは結果を知らない時点で判定できる必要があります。
期限を決めない
「いつか上がる」はほぼ反証できません。8本後、当日クローズなど、失敗を確定できる期限を置きます。
勝率だけで成功にする
無条件でも同程度に上がる市場なら、勝率が高くても追加情報はありません。比較対象との差を見ます。
実戦課題
自分がよく使う曖昧な言葉を1つ選び、7項目を埋めてください。まだバックテストは実行せず、まず仕様だけを保存します。保存日時と仮説IDを付けると、後から条件を動かした履歴を追えます。
「強いDisplacement」「きれいなFVG」のような裁量語を実体倍率、ATR比率、回帰期限へ変える例はICT手法をバックテストするで扱います。
チェックリスト
- 探索データと確認データを分けた
- 同じデータなら別の人も同じシグナルを作れる
- 予測する結果と期限が数値で決まっている
- 失敗条件を先に書いた
- データ提供元と時刻規約を記録した
- 結果後の変更は別試行だと理解した
ミニテスト
4問で確認します。
Q1. 検証可能な仮説に必須なのは?
外れたと判定できる条件が必要です。
Q2. 「いつか価格が戻る」の問題は?
期限のない予測は反証できません。
Q3. 結果を見てから条件を変えた場合は?
選択を伴う変更は試行回数に加えます。
Q4. FXの時間帯仮説で記録すべきものは?
時刻規約が違えば同じ条件を再現できません。