損益曲線は1本の経路

20勝20敗の結果でも、損失が前半に固まる経路と交互に起きる経路では心理負担と必要資金が変わります。過去に観測した最大ドローダウンは、起こり得る最大値ではありません。単なる観測経路の最大値です。

同じ最終損益途中のDDは違う
最終損益が同じでも、途中で耐える損失は順番によって変わります。

サンプル数と信頼区間

平均利益、勝率、シャープレシオは真の値ではなく推定値です。トレード数が増えるほど推定の幅は狭くなりますが、少数例では大きく揺れます。

サンプル数だけで安全にはなりません。同じイベントが固まって起きる場合や、同じ相場局面を重複して数える場合は独立性が弱くなります。

再標本化で何が分かるか

トレード順序のモンテカルロ

同じトレード損益を並べ替えて、多数の損益経路を作ります。最大ドローダウンや連敗の経路リスクを見る道具です。ただし、シグナル自体にエッジがあるかは証明しません。

ブートストラップ

観測データから復元抽出し、統計量のばらつきを推定します。FXの時系列を1本ずつ完全にばらすと、ボラティリティのまとまりや自己相関を壊す場合があります。連続したブロック単位で抽出するなど、依存構造を残す方法を検討します。

再標本化は万能ではない

過去データに存在しなかった制度変更、流動性危機、業者仕様変更は再現できません。数値の分布は「過去と似た仕組みが続く範囲」の不確実性です。

正規分布を決めつけない

価格水準の差ではなく、原則としてlog return = log(Pt / Pt-1)を使います。収益の歪度・超過尖度とJarque–Bera検定を出し、p<0.05なら正規近似を使う箇所へ注意を付けます。VaRを扱う場合は正規分布だけでなくCornish–Fisher補正など、歪みと厚い裾を反映する方法を用います。

ゴールドや指標時のFXは大きな外れ値が出やすいため、平均と標準偏差だけでなく、最大損失、分位点、ギャップも確認します。

成績指標は問いごとに使い分ける

同じSharpeでも「利益が出た時期」は違う

全期間のSharpeが同じでも、毎年少しずつ稼ぐ戦略と、特定の局面だけで大きく稼ぐ戦略は同じではありません。ローリングSharpeを時系列に並べ、その平均が基準をどれだけ安定して上回るかを自己相関も考慮して測るSharpe Stability Ratio(SSR)が2026年に提案されています。SSRは期間内の持続性、DSRは多数試行から選んだバイアスを問う別の指標です。どちらか一つで採用せず、OOS、コスト、DD、期間別の頑健性検証と併用します。

単独の合格ラインを作らない

PF、Sharpe、Calmarのどれも、期間、サンプル数、コスト、レバレッジで変わります。異なる期間の戦略を数値だけで順位付けせず、期待値の信頼区間、DD分布、歪度、取引数と一緒に読みます。Sharpeの選択バイアス補正は試行回数NとDSRで扱います。

よくある間違い

過去最大DDを将来の上限にする

観測した経路の最大値にすぎません。並べ替え分布やストレス条件を併記します。

モンテカルロでエッジを証明する

順序の並べ替えは経路リスクを見ます。帰無仮説との比較は第6回の仕事です。

すべてのバーを独立に抽出する

時系列のまとまりを壊し、現実より穏やかな分布になることがあります。

実戦課題

次の検証レポートの冒頭に、トレード数、期待値、勝率、ペイオフ比、PF、Sharpe、Sortino、Calmar、平均損益の95%CI(n≥30のみ)、最大DD、95%点のDD、歪度、超過尖度、Jarque–Bera p値を並べる枠を作ります。時間帯別結果を出す場合はサーバー時刻とJSTを併記します。

チェックリスト

ミニテスト

4問で確認します。

Q1. 過去の最大ドローダウンは?

順序や将来局面が違えば、より大きなDDも起こり得ます。

Q2. トレード数が30未満なら?

少数例で精密な判断をしません。

Q3. トレード順序のモンテカルロが主に測るものは?

エッジの有無とは別の問いです。

Q4. 収益分布の確認に必要なのは?

正規近似が妥当かを点検します。

参考資料

再標本化の基礎は Bradley Efron, Bootstrap Methods: Another Look at the Jackknife を参考にしています。金融時系列では依存構造を踏まえた方法が別途必要です。