天才はなぜ吹き飛びかけたのか?

リサーチ・論文

AI時代の異色ファンド「Situational Awareness」設立から67%暴落まで

2026年7月、AI関連株の急落をめぐって、ひとつの新興ヘッジファンドが市場の中心に浮かび上がってきました。

その名はSituational Awareness LP

創業者のレオポルド・アッシェンブレナーは、コロンビア大学を19歳で首席卒業し、OpenAIのスーパーアラインメント部門で働いた後、AIの急速な進歩を予測する長大な論考『Situational Awareness』を発表した人物。

同じ名前を冠したファンドは、AIインフラ株への大胆な投資によって、設立から短期間で200億ドルを超える規模へ膨張した。2026年上期には439%という異次元のリターンを記録したとされます。

しかし、その翌月に運用資産は67%下落。公開株ポートフォリオの大部分をシタデルへ売却し、レバレッジを全面的に解消する事態に追い込まれることに・・・。

AI時代の未来を誰よりも早く見通した人物が、なぜ市場で吹き飛びかけたのか。

ここでは、創業者の経歴、設立経緯、SEC提出書類、Form 13Fから見える運用方針、本人のインタビューから読み取れる哲学、2026年7月の崩壊劇、そして「暴落の最中に結婚式を控えていた」という噂まで、確認できる事実を体系的に整理します。

※本稿は2026年8月1日時点の公開情報に基づく。Situational Awarenessは非公開ファンドであり、監査済みの月次リターンや完全なポジション情報は一般公開されていません。

 

 

 

TL;DR

Situational Awarenessの興亡は、単純な「AIバブルに乗った若者が失敗した」という話ではありません。

重要なのは次の4点。

  1. AIのボトルネックが電力、データセンター、半導体、冷却設備へ移るという投資仮説は、かなり早い段階で正しかった
  2. ファンドは株式だけでなく、オプション、借入、非公開株を組み合わせ、巨大なグロス・エクスポージャーを構築していた可能性が高い
  3. 2026年7月には投資仮説そのものより、レバレッジ、流動性、ポジションの集中、ファンド名の知名度が連鎖的な損失を生んだ
  4. ファンドは法的に清算されたわけではなく、公開株の大部分を処分して無借金化し、非公開資産を残した状態で運用を継続している

そして個人トレーダーにとって最大の教訓は、これに尽きるかな。

未来を正しく予測することと、その未来が到来するまでポジションを維持できることは、まったく別の能力である。

 

 

 

1.創業者レオポルド・アッシェンブレナーとは何者か

ドイツからコロンビア大学へ

レオポルド・アッシェンブレナーはドイツ出身で、米コロンビア大学に進学。

経済学と数学・統計学を専攻し、2021年にコロンビア・カレッジを首席で卒業。本人によると卒業時は19歳。大学の公式記録でも、2021年度のvaledictorianに選ばれたことが確認できます。

卒業後はオックスフォード大学のGlobal Priorities Instituteで、長期的な経済成長に関する研究に携わりました。

その後、FTX創業者サム・バンクマン=フリードらが関係した財団Future Fundに参加し、AIリスク、バイオセキュリティ、人材支援などの助成を担当した。本人は、巨大組織より小さなチームで迅速に判断し、第一原理から資金を配分する経験を得たと語っています。

 

 

FTX崩壊から得た教訓

Future Fundは2022年のFTX破綻によって崩壊。

アッシェンブレナーは後のインタビューで、この経験から「成功している人物だからといって、問題のある行動を都合よく解釈してはいけない」「指導者の人格をもっと注意深く見るべきだった」と振り返っています。

皮肉なのは、後に自らのファンドでも、優れた知性や高い実績がリスク管理上の警告を覆い隠す構造に入り込んだこと。

 

 

OpenAIのスーパーアラインメント部門へ

その後、アッシェンブレナーはOpenAIに入り、人間より高度なAIを人間の意図に従わせる「スーパーアラインメント」の研究に参加。

OpenAIが発表した「弱いモデルによる強いモデルの監督」を研究するWeak-to-Strong Generalization論文では共同著者となっています。同研究は後にICML 2024で発表されました。

ただしOpenAIでの在籍は長く続きませんでした。

報道によると、OpenAI側は社外への情報共有を理由としてアッシェンブレナーを解雇しました。一方、本人は共有したのは機密情報ではなく、信頼する外部研究者3人に研究上のアイデアを相談しただけだと主張しています。

さらに本人は、OpenAIのセキュリティ対策が中国などによる産業スパイに対して不十分だと警告する内部文書を作成したことも、解雇の背景にあったと述べています。OpenAI側と本人の説明には食い違いがあり、公開情報だけでどちらが正しいかを断定することはできません。

 

 

 

2.『Situational Awareness』という論考

2024年6月、アッシェンブレナーは『Situational Awareness: The Decade Ahead』を公開。

論考の主張は大胆でした。

  • 2027年前後までにAGIが実現する可能性がある
  • AGIがAI研究を自動化し、急激な知能爆発へ進む
  • 数千億ドルから1兆ドル規模の計算資源クラスターが構築される
  • AI開発は米中の国家安全保障競争になる
  • 民間研究所だけでは制御できず、最終的には政府主導のプロジェクトへ移行する可能性が高い

本人は、公開情報、自身の分析、AI業界で得た知識、そしてサンフランシスコで流通する噂を材料にした論考だと明記しています。したがって、学術的な予測モデルというより、技術、経済、安全保障、電力需要をひとつの物語へ統合した戦略文書に近い。

この論考が投資の羅針盤となりました。

AIモデルの性能向上だけを見るのではなく、それを実現するために必要な半導体、電力、冷却、データセンター、送電設備までをひとつの産業システムとして捉えたわけですね。

 

 

  

3.ファンド設立の経緯

論考をそのまま投資会社にする

アッシェンブレナーは2024年、論考と同じ名前を持つ投資会社Situational Awarenessを設立しました。

公式プロフィールによると、初期投資家にはStripe共同創業者のパトリック・コリソンとジョン・コリソン、元GitHub CEOのナット・フリードマン、起業家・投資家のダニエル・グロスらが含まれていました。

SECに提出されたForm Dでは、Situational Awareness Fundはヘッジファンド型のプール投資ビークルとして登録されています。

募集はRule 506(b)に基づく私募で、投資家1人当たりの最低投資額は500万ドル。運用報酬と成功報酬を徴収する仕組みも記載されている。Form Dにはアッシェンブレナー本人が2024年9月23日付で署名しています。

 

 

 

小さな組織、巨大な資産

2026年4月時点のForm ADVによれば、運用会社の従業員はわずか8人で、そのうち投資業務に従事するのは4人でした。

規制上の運用資産額は約92.8億ドルで、顧客は2つのプール投資ビークルのみ。すべて裁量運用でした。

経営・投資チームの中核は次の人物。

  • レオポルド・アッシェンブレナー:創業者、最高投資責任者
  • カール・シュルマン:リサーチ責任者、共同ポートフォリオマネジャー
  • ニコラス・グロス=ウィテカー:最高執行責任者

SECへの大量保有報告では、アッシェンブレナーが運用会社を支配し、シュルマンが共同ポートフォリオマネジャーを務めていることが確認できます。

つまりこれは、数百人のアナリストを抱える巨大ヘッジファンドではない。

AI研究者を中心とする数人のチームが、数百億ドル相当のポジションを動かしていた

 

 

 

4.設立来の運用成績

Situational Awarenessは非公開ファンドなので、一般投資家が検証できる監査済みの月次リターンは存在しない。

以下は投資家書簡を入手した報道機関の数字を整理したもの。

期間報道された運用成績備考
2025年上期約+47%報酬控除後
2026年1月から5月約+270%報酬控除後と報道
2026年上期+439%投資家書簡に基づく報道
2026年7月-67%単月
2026年年初来、7月末約+80%7月の暴落後もプラス

2025年上期には、運用資産約15億ドルで47%の利益を上げたと報じられた。2026年5月までの年初来リターンは約270%、6月末まででは439%に達しました。しかし2026年7月、ファンドは67%下落しました。

計算上も、上期末までに資産が5.39倍になった後、そこから67%失うと、

5.39 × 0.33 ≒ 1.78

となります。

したがって、7月末時点で年初来約80%というReutersの報道とはおおむね整合します。

これは一見すると「まだ80%勝っている」とも言えます。

だが、投資家の資金流入が年間を通じて行われていた場合、ファンドの年初来リターンがプラスでも、途中から参加した投資家は大幅な損失を抱えている可能性があります。

 

 

 

5.Form 13Fから見えるポートフォリオの膨張

13F開示価値の推移

SECのForm 13Fに記載された米国上場証券の開示価値は、次のように増加しました。

四半期末13F開示価値
2024年12月末約2.55億ドル
2025年3月末約10.1億ドル
2025年6月末約21.2億ドル
2025年9月末約41.4億ドル
2025年12月末約55.2億ドル
2026年3月末約136.8億ドル

2024年末から2026年3月末までの約15カ月で、13F上の開示価値は約54倍になりました。

ただし、これは運用成績ではありません。

13F残高の増加には、次のすべてが混ざっています。

  • 投資家からの資金流入
  • 保有株の値上がり
  • 借入によるポジション拡大
  • オプションの原資産価値
  • ポートフォリオの入れ替え

したがって、13Fが54倍になったからといって、ファンドが54倍のリターンを出したわけではありません。

 

 

最初のポートフォリオ

2024年末の13Fには、わずか6銘柄しか記載されていませんでした。

  • Marvell Technology
  • Vistra
  • Vertiv
  • Talen Energy
  • Constellation Energy
  • Modine Manufacturing

この組み合わせには明確な一貫性があります。

MarvellはAI向け半導体・ネットワーク、Vertivはデータセンターの電源・冷却、Modineは熱管理、Vistra、Talen、Constellationは発電事業者。

つまり、ファンドは最初から単純な「Nvidia買い」ではありませんでした。

AIが普及すれば、まず不足するのはGPUだけではなく、電気、送電、冷却、データセンター設備になるという物理的ボトルネックへ投資していました。

この仮説は『Situational Awareness』の世界観とほぼ一致します。

 

 

 

6.2026年3月末の巨大ポートフォリオ

2026年3月末の13Fには42項目、総額約136.8億ドルが記載されていました。

主要なロング銘柄には次のとおり。

  • Bloom Energy
  • CoreWeave
  • Core Scientific
  • IREN
  • Applied Digital
  • Sandisk
  • CleanSpark
  • Riot Platforms
  • 光通信、メモリー、データセンター関連企業

ここでも中心は、AI計算資源と電力インフラです。

特にCore Scientificについては、約2,876万株、発行済み株式の約9.4%を保有していました。取得資金は約3億6,210万ドルで、経営陣との対話や事業状況の継続的な監視も可能とする記述がSEC提出書類にあります。

これは単なる分散型インデックス投資ではありません。

少数のAIインフラ関連企業へ大きく資本を配分し、場合によっては10%近くを保有する、極めて集中度の高い運用でした。

 

 

 

7.大量のプットは「AI暴落への賭け」だったのか

2026年3月末の13Fで最も目立つのは、大量のプット・オプションです。

13Fの開示価値を筆者が分類すると、おおむね次の構成になります。

区分開示価値構成比
普通株約38.6億ドル約28.2%
コール・オプション約13.6億ドル約10.0%
プット・オプション約84.6億ドル約61.9%

プットの対象には、次のような大型半導体・AI銘柄が並んでいました。

  • Nvidia
  • Broadcom
  • AMD
  • Micron
  • ASML
  • TSMC
  • Oracle
  • 半導体ETFのSMH

最大のプット開示はSMHの約20.4億ドルで、Nvidiaが約15.7億ドル、Oracleが約10.7億ドル、Broadcomが約10.1億ドルでした。

これだけを見ると、ファンドがAI株の全面崩壊に賭けていたように見えます。しかし、その解釈は危険です。

 

 

13Fのオプション価値は投資元本ではない

SECの13Fでは、オプションの「価値」は原則として対象となる株式の価値を基準に記載されます。そこには次の情報がありません。

  • 権利行使価格
  • 満期
  • オプション料
  • デルタ
  • ガンマ
  • 実際の損益感応度
  • 売建てオプション
  • OTCオプションやスワップ

さらに13Fには空売りポジションも記載されない。米国外の取引所で保有する証券や、非公開株、借入金、現金も基本的に見えません。

したがって、84.6億ドル分のプットがあったからといって、84.6億ドルをプット購入に使ったわけではありません。また、ファンドがネット・ショートだったとも判断できません。

 

 

筆者も5月時点で、この異例なポジションに注目していた

筆者は2026年5月19日に公開した「Form-13Fで米ファンドの動向を探る 1Q 2026」で、Situational Awarenessの2026年第1四半期のForm 13Fも取り上げています。

当時の13Fでは、Situational Awarenessの開示ポートフォリオが前四半期の約55億ドルから約137億ドルへ急拡大し、新規または追加された上位ポジションには次のような半導体関連のPUTが並んでいました。

  • SMH PUT:約20.4億ドル
  • Nvidia PUT:約15.7億ドル
  • Oracle PUT:約10.7億ドル
  • Broadcom PUT:約10.1億ドル
  • AMD PUT:約9.7億ドル

一方、同じ四半期にJane Streetは、NvidiaのPUTを約15.2億ドル、TSMCのPUTを約15億ドル減らしていた。Jane StreetはSPYやRussell 2000の指数PUTを増やしていたため、弱気ポジション全体を縮小していたわけではないが、半導体個別株について両者の動きが逆方向だったことは目を引きました。

当時の受け止めは、「AI・半導体に対して、かなり大きなPUTを積んでいるが大丈夫なのか」という程度でした。

Situational Awarenessが数カ月後に67%もの損失を出すことや、これほど大きなレバレッジと流動性リスクを抱えていることまで予見していたわけではありません。そもそも13Fだけでは、PUTの行使価格や満期、デルタ、反対側にある現物株・空売り・店頭デリバティブを確認できないため、当時も単純な弱気ポジションとは断定できませんでした(弱気だとは思っていましたが)。

それでも、今回の顛末を踏まえて過去の13Fを振り返ると、ポートフォリオの急膨張と、他の大手トレーディング会社とは異なる巨大な半導体PUTの積み上げは、少なくとも通常とは違うリスク構造を示す黄色信号だったとは言えます。

これは「13Fを見れば暴落を予測できた」という話ではありません。

むしろ教訓は逆。13Fは破綻の時期や損失額を教えてくれないが、運用規模の急拡大、特定テーマへの集中、オプション残高の異常な増加といった、さらに調査すべき異変を発見するレーダーにはなり得ます。

 

 

最も合理的な解釈

公開資料から推測できる運用構造は、次。

  1. 電力、データセンター、AIインフラ企業を集中ロング
  2. 一部の銘柄ではコールを利用して上昇余地を拡大
  3. 大型半導体株や半導体ETFのプットで市場全体のAIバリュエーションをヘッジ
  4. 「AI需要の拡大」という共通テーマの中で、勝者と敗者の相対価格差を取る

つまり、

AI全体を買ったのではなく、AI投資の恩恵がGPUメーカーから電力・データセンター側へ移ることに賭けた

可能性が高い。

これはロング・ショート、テーマ投資、相対価値、オプションを組み合わせた高度な構造だったと考えられます。

ただし、そのヘッジが実際にどれだけ機能したかは13Fだけでは分かりません。

 

 

 

8.Form ADV、13F、報道の数字が一致しない理由

Situational Awarenessについては、次のような異なる数字が報じられている。

  • Form ADVの規制上運用資産:約92.8億ドル
  • 2026年3月末13F:約136.8億ドル
  • 2026年半ばの運用資産:200億ドル超
  • 一部報道のポートフォリオ規模:約450億ドル
  • シタデルへ移された公開株ポートフォリオ:約160億ドル

一見すると矛盾しています。

しかし、これらは同じ物差しではありません。

Form ADVのRAUMは一定の規則で計算された規制上の運用資産であり、借入を差し引かないグロスベースの性格を持ちます。

13Fは特定の米国上場証券と一部オプションだけを対象とし、オプションは原資産価値で表示されます。

報道上のAUMは投資家持分の純資産を指す場合があります。

450億ドルという数字は、借入やデリバティブを含む総投資エクスポージャーを表していた可能性があります。これは公開された各数字からの推定であり、ファンドが公式に内訳を開示したものではありません。

大きな数字が並んでいても、「NAV」「RAUM」「13F value」「gross exposure」を混ぜてはいけません。これはヘッジファンド分析で最も頻繁に起こる錯覚のひとつ。

 

 

 

9.インタビューから分かる投資哲学

「AIファンド」ではなく「AI時代の頭脳集団」

アッシェンブレナーはDwarkesh Patelとのインタビューで、Situational Awarenessを単なる投資会社ではなく、AIについて深く考える独立した「brain trust」にしたいと語っています。

ニューヨークの一般的な資産運用会社よりAI開発の現場に近く、技術、国家安全保障、経済、電力を統合して判断する組織を目指していました。

本人の表現を借りれば、構想は「ヘッジファンドの中にシンクタンクを置く」ことでした。

この発想には合理性があります。

AI投資では、四半期決算だけを追うより、

  • モデル性能の進歩
  • 計算量のスケーリング
  • GPU供給
  • 送電網の制約
  • 発電設備の建設期間
  • 米中輸出規制
  • データセンターの資本支出

をひとつの地図上で見る必要があるからだ。

歴史に対する使命感

アッシェンブレナーの発言には、一般的なファンドマネジャーより強い歴史観があります。

本人は「自分の国や歴史に対する義務」を意識し、AI開発を単なる商業競争ではなく、第二次世界大戦や冷戦に匹敵する国家的転換点として捉えています。

また、自分が正しいと考えることを公に語る姿勢を重視し、自らを言論に関する「deontologist」、義務論者に近いと表現しました。

 

 

高いエージェンシーと非同調性

本人の経歴とインタビューから読み取れる特徴は、次のように整理できます。

  • 若い頃から組織の権威に依存せず、自分で判断する
  • 少数派であることを恐れない
  • 技術、経済、安全保障を横断する
  • 長期の巨大な構造変化から逆算する
  • 自らが歴史の重要局面にいるという意識が強い
  • 知的確信を大規模な行動へ直結させる

これは新しい投資テーマを早期に発見するうえでは大きな武器です。

一方で、同じ性質は過剰な確信にもつながりそうです。

周囲より早く正解へ到達した経験が積み重なると、「自分の分析が正しい」という認識と、「自分のポジションサイズも正しい」という認識が溶け合いやすくなります。

 

 

 

10.本人が語っていた最大のリスク

2025年のインタビューで、アッシェンブレナーはファンド経営について、次の趣旨を述べていた。

“not blowing up is task number one and two”

つまり、最優先事項の1番目も2番目も「吹き飛ばないこと」だと認識していました。

また、AGIが実現する方向性だけでなく、その時期、順序、途中で何が起きるかが投資では重要だと説明していました。

これはド正論。

しかし2026年7月、ファンドはまさに本人が最大のリスクと認識していた「吹き飛ぶ寸前」まで追い込まれましたのは皮肉。

 

 

 

11.2026年7月、何が起きたのか

67%の損失

Reutersによると、Situational Awarenessは2026年7月に約67%下落しました。

アッシェンブレナーは投資家に対し、ファンドが恒久的な資本毀損に近づいたと説明し、7月の損失について全面的な責任を認めました。

報道を総合すると、損失の連鎖はおおむね次の構造だったとみられます。

  1. AI関連株、半導体株、データセンター関連株が急落
  2. 集中ロングとオプションの損失が拡大
  3. レバレッジによりNAVの下落が増幅
  4. ファンドの保有銘柄が市場に知られていたため、他の市場参加者が売却を先回り
  5. 値下がりに伴う証拠金・リスク制約が発生
  6. さらにポジションを売らざるを得なくなる
  7. 売却が市場価格を押し下げ、追加損失を生む

アッシェンブレナー自身は、このフィードバックを銀行取り付けに似た動きと説明しました。

ファンドが特定銘柄の大口保有者だと市場に認識されると、そのファンドが売らざるを得ないこと自体が取引材料になります。

これは「分析が外れた」というより、ポジションの存在そのものが相場を不利に動かす状態です。

 

 

シタデルへのポートフォリオ売却

Situational Awarenessは、公開株ポートフォリオの大部分をケン・グリフィン率いるシタデルへ売却しました。

ReutersとWall Street Journalは「bulk」「most」と表現しており、公開株を文字どおり一株残らず売却したとまでは確認できません。

Financial Timesは、シタデルが取得した公開株ポートフォリオを約160億ドルと報じ、取引価格には約10%のディスカウントが付いたとしています。

シタデルによる取得がAI関連株の連鎖的な売却を食い止め、市場の安定化に寄与したとの見方も報じられました。

ただし、ひとつの強制売却が完了したことは、AI株が長期的な底を打ったことを意味しません。

需給上の売り圧力が一時的に解消されたことと、企業価値に対して株価が割安になったことは別問題と捉えたほうがよいですね。

 

 

 

12.ファンドは倒産・清算したのか

現時点では、法的に清算されたわけではない。

Reutersによると、Situational Awarenessは公開株の大部分を解消し、すべてのレバレッジを取り除きました。Financial Timesも、ファンドが運用を継続し、将来も公開株投資から完全撤退するつもりはないと報じています。

また、ファンドは保有していたAnthropic株約35億ドル分を売却する交渉を進めていたが、その取引から撤退したとWall Street Journalが報じました。

したがって、Anthropicなどの非公開資産は少なくとも一部が残っているとみられます。

2026年8月1日時点の着地点は、次のように表現するのが最も正確です。

 

ファンドの消滅ではなく、強制的なデレバレッジと公開株部門の大規模縮小

 

つまり「破綻したファンド」ではありません。

だが、投資家資本の3分の2を1カ月で失い、大部分の公開株を他社へ移管し、運用モデルを根本的に変更した以上、従来のSituational Awarenessは事実上終わったとも言えます。

 

 

 

13.「400%のレバレッジ」は本当か

日本語の紹介記事では、ファンドが400%程度のレバレッジをかけていたとされています。一部報道にも最大4倍程度という数字は見られます。

しかし、公開されているForm 13F、Form ADV、Form Dから正確な借入倍率を確定することはできません。

13Fは借入金を表示せず、オプションの実質デルタも分からない。報道でいう「4倍」が、

  • 総資産 ÷ 純資産
  • グロス・エクスポージャー ÷ NAV
  • デリバティブの原資産価値 ÷ NAV
  • 特定時点の最大値

のどれを意味するのかも明確ではありません。したがって、現時点では次の表現が妥当かな。

 

ファンドが大規模なレバレッジを使用していたことは複数の有力報道と本人の説明から確実だが、正確に400%だったとSEC資料から確認することはできない。

 

 

 

14.結婚式の噂は本当だったのか

「ファンド崩壊の最中、アッシェンブレナーは今週末に結婚式を控えていた」という話は、単なるSNS上の創作ではありません(正直、デマやろと思いましたが)。

Wall Street Journalは、アッシェンブレナーが北カリフォルニアのカーメルで数日間にわたる結婚式を予定しており、ファンドの危機が深まる中で招待客が到着し始めていたと報じています。

 

結婚式を予定し、準備が進んでいたという噂は、有力紙の報道によって相当程度裏付けられている。

 

一方、2026年8月1日昼時点では、予定どおり挙式が完了したことまでは独立して確認できない。

また、婚約者や招待客などの私生活上の詳細は、ファンドの分析に必要な範囲を超えるため本稿では扱いません。

市場史には数多くの劇的な場面があるが、数百億ドルのポートフォリオを処分しながら週末の結婚式を迎えるという状況は、さすがに脚本家が盛りすぎと止められそうな展開ですね。

 

 

 

15.個人トレーダーへの8つの示唆

1.正しい予測でも破産できる

AIによる電力需要の増加やデータセンター投資の拡大という長期仮説は、7月の暴落だけで否定されたわけではありません。しかし、長期仮説を短期借入で保有すれば、仮説が実現する前に退出させられます。

投資期間より資金調達期間が短いポジションは、構造的に不安定。

 

 

2.確信度とポジションサイズを直結させない

優れた分析ほど危険なことがあります。

分析に自信があると、

  • ポジションを大きくする
  • 損切りを遅らせる
  • 下落時に買い増す
  • レバレッジを高める
  • 反対意見を情報不足とみなす

という行動が同時に起きやすくなります。

「仮説への確信」と「口座が耐えられるサイズ」は別々に決めなければなりません。

 

 

3.最大損失は平常時のボラティリティから計算しない

平常時の相関やATRを前提にしたリスク管理は、危機時に壊れます。

ストレステストでは、少なくとも次を同時に想定すべきです。

  • 保有銘柄が窓を開けて下落する
  • 銘柄間相関が1に近づく
  • オプションのインプライド・ボラティリティが急変する
  • スプレッドが拡大する
  • 証拠金率が引き上げられる
  • 想定価格で決済できない

「損切り注文を置いているから安全」ではありません。注文が通る市場が残っていることも前提だからですね。

 

 

4.ヘッジがあることと、ヘッジされていることは違う

Situational Awarenessは大量のプットを保有していたように見えます。それでも67%下落した。

考えられる原因には、

  • ロングとプット対象のベーシス・リスク
  • 満期や行使価格の不一致
  • デルタ不足
  • オプション価格変動
  • ロング側の流動性悪化
  • プット以外のデリバティブ
  • 借入コストや証拠金

があります。

ヘッジは銘柄名ではなく、危機時の損益曲線全体で評価しなければなりません。

 

 

5.13Fコピー取引は「45日前の影絵」

13Fは四半期末から最大45日後に提出されます。

しかも空売り、スワップ、現金、借入、非公開株、オプションの細部が見えない。

投資家が13FでBloom Energyのロングを見ても、その裏側に何十億ドルもの半導体プットや別のヘッジがあるかもしれない。

13Fだけを見て盲目的にコピーするのではなく、ファンドの思惑を類推すること、どの業界に強気なのか弱気なのかを見通す力が必要とされます。

 

 

6.AUM増加を運用能力と混同しない

有名な投資家が出資し、リターンが上昇すると、新しい資金が殺到します。

すると運用資産の増加がさらに評判を高め、追加資金を呼ぶ。

しかし、運用資産が大きくなるほど、

  • 小型株で同じリターンを出しにくくなる
  • ポジションの処分に時間がかかる
  • 自らの売買で価格が動く
  • 市場に保有銘柄を推測される

という問題が生じる。

過去の成功が、未来の流動性リスクを育てるってやつですな。

 

 

7.有名になること自体が市場リスクになる

ファンドのテーマ、保有銘柄、レバレッジが市場に知られると、他の参加者は強制売却を予測できます。これは通常の価格リスクとは異なります。

自分が苦しいことを他人に知られているという情報リスクです。

個人トレーダーでは規模が小さいため同じ現象は起こりにくいが、SNSでポジションを公開し、撤退条件まで明かしている場合は小型株や暗号資産で似た問題が起こり得えます。

 

 

8.「生き残ること」を独立した戦略にする

良い戦略とは、期待値が高い戦略だけではありません。

  • 連敗時にサイズを落とす
  • グロス・エクスポージャーの上限を決める
  • 1テーマへの集中上限を決める
  • 何営業日で全決済できるかを測る
  • 追加証拠金に耐える現金を残す
  • 一定のドローダウンで裁量を停止する
  • 利益が急増した後ほどレバレッジを下げる

といった「生き残るための第二戦略」が必要です。

Situational Awarenessには未来を予測する高度な第一戦略があった。足りなかったのは、その予測が外れたときではなく、正しくても途中で大きく揺れたときに生き残る第二戦略でした。

 

 

 

16.最終評価

レオポルド・アッシェンブレナーを、単なる若い投機家と片付けるのは適切ではありません。

彼はAIの進歩を、半導体だけでなく電力、冷却、データセンター、安全保障まで含めて分析し、それを非常に早い段階で投資ポートフォリオへ変換しました。

2024年末の6銘柄を見るだけでも、AIインフラ投資の構造を先取りしていたことは明らか。

一方、その知的優位性は、ファンドの急成長とレバレッジによって別のリスクへ変質しました。

  • 正しいテーマ
  • 集中したポジション
  • オプション
  • 巨額の資金流入
  • 借入
  • 流動性の低い銘柄
  • 公開された投資ストーリー

これらが同じ方向を向いている間、リターンは爆発的に伸びました。

だが、方向が反転すると、同じ仕組みが逆回転しだしました。

Situational Awarenessとは、本来「状況を正しく認識する能力」を意味する。

この事件が示したのは、未来の技術や国家戦略を見通すだけでは十分ではないということ。

自分のポジションが市場でどれほど大きくなったのか、相手が自分をどう見ているのか、借入先がいつ態度を変えるのか、出口がどれほど狭くなっているのか。

最も難しいSituational Awarenessは、世界を見ることではなく、自分自身が市場の一部になったことを認識することだったのかもしれません。

 

 

 

引用・参照サイト

一次資料・公式情報

  • SEC Form D、Situational Awareness Fundの私募条件、最低投資額、署名情報
  • SEC Form ADV、運用資産、従業員数、顧客構成、所有関係
  • SEC Form 13F、2024年第4四半期から2026年第1四半期までの保有状況
  • SEC Schedule 13D、Core Scientific大量保有報告
  • SEC Form 13F Frequently Asked Questions、開示対象と制約
  • Situational Awareness公式サイト、創業者略歴
  • 『Situational Awareness: The Decade Ahead』原文
  • Columbia University、2021年valedictorian紹介
  • OpenAI、Weak-to-Strong Generalization研究

 

 

インタビュー・本人発言

  • Dwarkesh Patelによるレオポルド・アッシェンブレナーへの長時間インタビュー
  • Future Fund、FTX崩壊、組織運営に関する本人の回顧

 

 

報道

  • Reuters、2026年7月の67%下落、デレバレッジ、シタデルへの売却
  • Wall Street Journal、ファンドの急成長、公開株売却、Anthropic株売却交渉
  • Wall Street Journal、結婚式準備とファンド危機の同時進行
  • Financial Times、ファンド継続方針、シタデルによる約160億ドルのポートフォリオ取得
  • Wall Street Journal、2025年上期の運用成績とファンド規模
  • WIRED、OpenAI退職をめぐる報道

 

 

 

※本記事は公開情報の整理と考察であり、特定の証券、ファンドまたは投資戦略を推奨するものではありません。

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