シリーズ「リスク管理と資金管理」全8回の第6回です。
トレードのルールは「どう入るか」を決めるものが大半です。「入らない条件」を書いている人は多くありません。
ですが回数が増えるほど不利になる構造があるので、入らない条件のほうが成績に効くことがあります。
TL;DR
- 1トレードのグロス期待値が往復コストを下回ると、回数を増やすほど損失が積み上がります
- 往復0.8pipsのとき、グロス0.5pipsの手法は500回で-150pips。同じ手法を100回に抑えれば-30pipsで済みます
- 薄いエッジで回数を稼ぐ戦い方は、コストが固定である以上ほぼ勝てません
- 入らない条件を書くのは我慢の話ではなく、コスト構造の話です
回数が効く方向
1トレードあたりの期待値が、コストを引く前で何pipsあるか。往復コストを0.8pipsとして、回数を重ねたときの結果です。
| グロス期待値 | コスト後 | 100回後 | 500回後 |
|---|---|---|---|
| 0.5 pips | -0.3 pips | -30 pips | -150 pips |
| 0.8 pips | 0.0 pips | 0 pips | 0 pips |
| 1.0 pips | +0.2 pips | +20 pips | +100 pips |
| 2.0 pips | +1.2 pips | +120 pips | +600 pips |
| 5.0 pips | +4.2 pips | +420 pips | +2,100 pips |
境目は0.8pipsです。ここを上回っていれば回数は味方になり、下回っていれば回数は敵になります。中間はありません。
グロス0.5pipsの手法は「ほぼ五分」に見えます。実際、勝率も悪くないはずです。ですが回数を重ねるほど確実に負けます。手法の善し悪しではなく、コストとの大小関係で符号が決まります。
「入らない」が効く理由
多くの人のトレードは、条件が揃った場面と、なんとなく入った場面が混ざっています。この2つはグロス期待値が違います。
条件が揃った場面が2.0pips、なんとなくの場面が0.3pipsだとします。前者だけなら回数を重ねるほど増えますが、後者が混ざるとその分だけ削られます。しかも回数は後者のほうが多いのが普通です。
つまり入らない条件を1つ書くことは、期待値の低い母集団をまるごと外すことです。手法を改良するより効きます。改良は難しいですが、外すのは決めるだけで済みます。
書き方
「無理なトレードはしない」では機能しません。その場で判定できる形にする必要があります。判定に迷った時点で入ってしまうからです。
使える形にするなら、こういう粒度です。
- 指標発表の前後◯分は入らない(時刻で判定できる)
- スプレッドが通常の◯倍を超えていたら入らない(数値で判定できる)
- その日すでに◯回負けていたら入らない(回数で判定できる)
- 上位足の方向と逆なら入らない(チャートで判定できる)
- エントリー根拠を1文で書けなければ入らない(書けるかどうかで判定できる)
最後のものは汎用性が高く、判定も一瞬です。書けないということは条件が揃っていないということなので、それ自体が答えになります。
回数を減らすと退屈になる問題
入らない条件を機能させると、トレード回数は目に見えて減ります。ここで多くの人が耐えられなくなります。
対処は、待っている時間に別の作業を割り当てることです。記録を書く、検証を回す、過去チャートを送る。「何もしない」を続けるのは難しいですが、「別のことをする」なら続きます。
まず何をするか
- 直近のトレード記録を、条件が揃った場面とそうでない場面に仕分ける
- それぞれの平均損益を出す
- 後者がコストを下回っていたら、その場面を除外する条件を1つ書く
- その条件を、時刻・数値・回数のいずれかで判定できる形に直す
1番目ができるかどうかは、記録の粒度で決まります。エントリー根拠が書いてなければ仕分けられません。
見送りの条件をルールとして運用に組み込む方法は、リスク管理コースの「トレードしない条件」で扱っています。コストがエッジを食う構造そのものは、検証コースの「コストを入れると消えるエッジ」のほうです。


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