複利で増やすつもりが減る理由:算術平均と幾何平均の差

ばらつき別の300回後の資産。0%で19.79倍、10%で4.55倍、15%で0.65倍 リスク管理・資金管理

シリーズ「リスク管理と資金管理」全8回第8回です。

平均して毎回1%増えるなら、300回で20倍近くになるはずです。実際にはそうならないことがあります。

平均が同じでも、ばらつきが大きいと手元に残る額は減ります。複利で運用する限り避けられない性質で、リスクを取りすぎたときに効いてくるものの正体でもあります。

 

 

 

TL;DR

  • 1回の平均リターンをすべて +1.0% に固定し、ばらつきだけを変えて比較しました
  • ばらつき0%なら300回後に19.79倍。ばらつき10%だと4.55倍まで落ちます
  • ばらつき15%では0.65倍。平均は毎回プラス1%なのに元本割れします
  • 効いているのは平均ではなく、実際に積み上がる幾何平均のほうです

 

 

 

平均が同じでも結果が違う

1トレードの平均リターンはどの行も +1.0% です。変えたのは1回ごとのばらつき(標準偏差)だけ。300回繰り返した後の資産の中央値です。

1回のばらつき 実際に積み上がる率 300回後の資産
0% 1.000% 19.79 倍
2% 0.981% 18.68 倍
5% 0.880% 13.87 倍
10% 0.507% 4.55 倍
15% -0.141% 0.65 倍

ばらつき15%の行では、平均が+1.0%なのに実際に積み上がる率がマイナスになっています。300回後には元本の65%です。

 

 

 

なぜそうなるのか

50%減ってから50%増えても元に戻りません。100が50になり、50が75になります。平均すればプラスマイナスゼロですが、実際には25%減っています。

これが毎回起きます。増減が大きいほど、往復した後の目減りが大きくなります。平均は足し算の世界の話で、資産は掛け算で積み上がるので、ばらつきの分だけずれていきます。

減る量はおおよそ「ばらつきの2乗の半分」です。ばらつき10%なら0.5%、15%なら1.1%。表の数字とだいたい合います。ばらつきが2倍になると目減りは4倍になるので、下のほうで急に効き始めます。

 

 

 

実務でどう効くか

ここまでの回で「リスク%を上げすぎると崩壊する」と書きました。その理由の半分はこれです。

リスク%を上げると、1トレードあたりのばらつきが直接大きくなります。平均リターンも上がりますが、目減りは2乗で増えるので、どこかで追い越されます。表でいえば10%から15%の間で符号が変わっている場所です。

だから「期待値がプラスなら、大きく張るほど速く増える」は成り立ちません。ある点を超えると、大きく張るほど遅くなり、さらに超えると減ります。

そしてこの話には、前提として期待値がプラスであることが要ります。マイナスなら、ばらつきの大小にかかわらず減ります。

 

 

 

減らす方法

ばらつきを下げる手は3つです。

  • 1回のリスク%を下げる。最も直接的で、効果も大きい
  • 相関の低い手法を組み合わせる。同時に負けにくくなるので、合計のばらつきが下がる
  • 1回の獲得幅を広げる。同じリスク%でも、コストの比重が下がるぶん結果のばらつきが減る

2番目は効きますが、相関が低いことを確認する作業が必要です。似た手法を並べても、同じ場面で同時に負けるだけでばらつきは下がりません。

 

 

 

まず何をするか

  1. 直近のトレード損益を、資金に対する%で並べる
  2. その標準偏差を出す(表計算ソフトのSTDEV関数で足ります)
  3. 上の表のどの行に近いかを見る
  4. 10%を超えているなら、平均がプラスでも積み上がらない領域に入っている可能性がある

2番目まではすぐ終わります。平均だけ見て「勝っている」と判断していたものが、実際には積み上がっていないことに気づく場合があります。

幾何平均とエルゴード性の関係、そこから導かれる最適な賭け金の上限(Kelly基準)と、なぜその半分以下に落とすべきかは、検証コースの「正の期待値でも破産する」で数式から扱っています。

これで資金管理の回は終わりです。損切りの置き方から始めて、ロットの逆算、リスク%、レバレッジ、連敗、見送り、勝てない原因、そして複利の性質まで。どれも手法の話ではありませんが、手法より先に効きます。

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